広いキッチンに響く軽快な調理音。
まるで生活感のなかったダイニングテーブルに並ぶ、白い湯気を立てた暖かな料理。
青々とした新鮮な野菜のサラダと、オムレツの上には赤いケチャップとパセリを添えて。
「…よし、出来た」
アンジールはその出来栄えを満足そうな表情で見下ろしつつ、そう言いながら微笑んだ。
「さて、そうしたらもう一仕事―」
そしてその次に向かう先は、ダイニングから見える、扉の開け放されたベッドルーム。
今日は素直に起きてくれるだろうか。
そんな一抹の不安を胸に抱きながら。
■あさごはんちゅー的な(仮)■
そのベッドルームの主、神羅最強のソルジャーと謳われる英雄・セフィロスにも唯一の弱点がある。
「おい、セフィロス」
しかしその弱点を知る者はアンジール唯一人であるのだが。
「いつまで寝ているつもりだ」
はぁ、と小さく溜息を吐いた後、アンジールは未だ夢の中の住人であるセフィロスの肩に手を掛け、軽く揺する。
「起きろセフィロス、『朝食』だ」
けれど幾ら声を掛けても覚醒する様子すら見せず、いつもは見る者を圧倒する様なその恐ろしいまでに美麗な表情を子供の様に緩ませて眠り続けるセフィロスに、アンジールは改めて呆れた表情を浮べてみせる。
アンジールがプライベートで知るところのセフィロスは、朝に滅法弱かった。
任務の間はこれ程深く眠る事は出来ない為、それ程周囲に露見する事が無いだけなのかも知れないが。
アンジールは相変わらず人事不肖の寝言の様な声で何やら呟きつつ毛布に包まるセフィロスの隣に腰を掛け、ふと、ダイニングテーブルの朝食に目を遣る。
今はまだ暖かい朝食も、このままではやがて冷たくなってしまうだろう。
折角の、やっと二人重なった偶の休暇の始まりの朝食が、このままでは無駄になってしまう。それはあまりにも勿体無い。
アンジールはふと一計を案じると、ダイニングテーブルに足を運び、『あるもの』をその手に携え再びセフィロスと相対した。
しかし今度は先刻の様にただ呼び掛けるのではなく、
「…セフィロス」
「う…」
眠るセフィロスの耳元で、声のトーンを若干落とした、しかし何処か誘う様な甘い声色で。
「もう、待ちきれないんだ。早く―」
「…」
すると俄かにアンジールに伸ばされるセフィロスの腕。そしてようやく覚醒したのか、いつもの様に目覚めの『キス』を要求してきた。
それはいつも共に朝を迎える時、必ずするお互いの存在の確認。
寝起きの為に酷く暖かい彼のその体温。いつもであればその暖かさに包まれて、もう少しまどろむ所であるのだが、しかし今日のアンジールはその暖かさに浸る事も要求に答える事もなく。
「早く、起きて、『飯』を食ってくれ」
「…ん…ぁ…??」
ざりっ とした唇から感じる感触に、流石のセフィロスも不意を突かれたのだろう。俄かにその蒼の瞳を開くと、その次の瞬間には少し恨めしそうにアンジールを見上げた。
「…(憮然)これは、どういうつもりだアンジール…;」
そんなセフィロスをしてやったり、と言う様な不敵な表情で見つめるアンジール。
「…どうもこうも、こう言う意味だ。朝だぞ、セフィロス」
セフィロスの唇に触れたのは、彼の求めたアンジールの唇でも頬でもなく、こんがりと焼けた『食パン』。
その香ばしい香りが、セフィロスの鼻腔をくすぐった。
「…後で、覚えていろ。アンジール」
そしてやっと共にテーブルに着き、朝食を頬張るセフィロスの言葉に、アンジールははは、と笑いながら答える。
「悪かった、さっきからそう言っているじゃないか」
「…(憮然)…」
しかし未だ不機嫌だ、と言う様に黙々と食事を続けるセフィロスの唇の端に、ほんの少しだけの『赤』。
それを見止めたアンジールは不意に椅子から立ちあがりテーブル上の料理に気を使いつつ身を乗り出すと、
「…全く…お前は頑固だな…;」
そう言って軽いキスと一緒にその『赤』いケチャップも拭った。
「…これで許してくれるか?」
「…許さない」
「は?なん―」
けれどアンジールのその抗議の言葉は、セフィロスにお返しとばかりに唇を不意に奪われた為に発する事ができなかった。
そして、テーブルを挟んでのやや無理のある体勢での口付けに、やがて二人は俄かに笑い出す。
「やはり、美味いな。お前の『朝食』は」
セフィロスのその言葉に、アンジールは改めて満足そうに微笑んだ。
■END■
小説:巡統括
原案・イラスト:織田
ふと思い付いた「アンジールにちうを拒否されるセフィロス」というのを、統括に「短くていいから小説(形)にして!!」とお願いして書いて頂きました!
お願いした翌日に完成って素晴らしいよ統括vV
自分もネタ提供者だけあってイメージは出来てたので、イラストも実は数枚描いてたんですよね。
だからコラボどーよ?って話になってここに実現した訳です。いやぁ嬉しいなぁ^^
統括有り難うございました〜!!